PUEBRO EN ARMAS 1975〜77 モノクロ52分
原題を邦訳すれば「武装する人民」となるこの記録映像は、まさに内戦の真っ只中で撮影され、ひそかに国外に持ち出されて現像・編集されながら、フランコ体制下に長く陽の目を見なかった禁断のフイルム断片が75年にイタリアで発見されたのを機に、バルセロナ市街戦からアラゴン戦線へ、マドリッド防衛戦へと転戦していったドゥルティ旅団の戦闘を中心に、76年に復権したCNTが世界の同胞のために再編集した長編ドキュメンタリーである。77年秋にCNT代表が来日した折にもたらされた原版に基づき、当時のスペイン現代史研究会を中心に独自の立場で、邦題・音声・BGMを付して『希望と欺瞞の間に』とともに、日本語版が制作された。
邦題が借用したエンツェンスベルガーの労作『スペインの短い夏』によれば、1936年11月20日に40歳の若さで戦死したブエナベントゥラ・ドゥルティの遺品は「下着の着替え1回分、ピストル2、双眼鏡1、サングラス1」だけであった。「これがドゥルティの全財産であった」と驚嘆するエンツェンスベルガーをさらに引くと、この質朴かつ剛直なアナキズム戦士の遺訓はこうだ。「ぼくらは廃墟を怖れない。ぼくらはこの大地をこそ継承する」──。本来「内戦」もしくは「内乱」とのみ邦訳されるべきCIVIL WARに「市民戦争」なる恣意的な日本語を宛てて、スペインにおける1936年〜1939年の全政治過程が偽造されるもととなったヒュー・トーマスの『スペイン市民戦争』が、「革命の成功がドゥルティに、途方もなく大きい自信と、個人的権勢の野望とを与えていた」と論証抜きで書き飛ばしたところから流布されはじめた虚像は、このエンツェンスベルガーからの短い引用だけで完膚なきまでに粉砕されるだろう。そして1896年にレオンで生まれ、早くも1917年のゼネストにリーダーとして参加して以降、スペイン本国と亡命地を往還しながらアナキストとして果敢に戦い抜き、36年7月の軍部反乱を武装せる人民を率いてバルセロナで撃退してからは常に民兵部隊の最前線に立ってフランコ麾下の正規軍と対決する途上で、マドリッド大学地区の戦闘で倒れたわが不屈の戦士の実像は「ドゥルティ旅団」の無数無名の同志たちと共にこの記録映画によって生々しく復権される。とりわけ革命を即時断行すべく集産体(コレクティブ)の樹立へと一気に突き進んだ農民大衆と、ドゥルティの死後スターリニストと対峙して悲劇の「二重内戦」を余儀なくされたCNTの労働者群像を活写 した記録映像は、まさしく貴重な歴史の証言と言っていい。 (松田政男)

ENTRE LA ESPELANZA Y EL FRAUDE  1977 カラー92分
副題ESPNA 1931-1939が示す通り1931年の王政の崩壊から39年の内戦の終結へといたる全過程を、フランコ体制の解体後にCooperativo de Cinema Alternativoが約2年間の歳月を費やして当時のフィルム、写真、新聞記事、ポスター、統計図表などを広範に蒐集する一方、戦争と革命の最前線を担ったCNT、UGT、社会党、共産党、POUM、国際旅団などの老闘士へのインタビューをも加えた長編ドキュメンタリーである。77年秋のCNT代表の来日に際し、当時のスペイン現代史研究会を中心に『スペインの短い夏』と共に製作された日本語版は、内戦をめぐる通史としては絶好のテキストと目されて自主上映されつづけることととなり、いまあらたに蘇る。
4部構成の章立てを以下列記するならば、[PART1]君主制の崩壊/4月14日/1931年当時の労働者階級/選挙・最初の政府/アサーニャ政府/1933年11月選挙/権力の座についた右翼/10月革命/人民戦線 [PART2]右翼の反乱/崩壊する政府/カタルニヤ・進行する革命/干渉と不干渉/共和国政府の再編/独裁者フランコ [PART3]マドリッド・武装する人民/国際的援助 [PART4]1937年5月・革命の消滅/ファランヘ・唯一の党/弾圧・ラルゴ・カバリェロ政府の退陣、ネグリン政府の変化/最初のフランコ政府/最後の戦い/戦争の終結--。見られる通り、1931〜39年のスペイン現代史の簡潔なスケッチになっているが、さらに随所に挿入される内戦当時の老戦士たちの所属と氏名をも掲げると、まず登場するのはPCE(スペイン共産党)のフェデリコ・メンコールで、つづくUGT(労働総同盟)のアルセニオ・ヒメノは同時にPSOE(スペイン社会主義労働者党)をも代表する。この両者は総体として「まず反ファシズム戦争を」と強調する側に立ち、CNT(全国労働者連合)のホアン・フェレール、POUM(マルクス主義統一労働者党)ホルティー・アンケールの「何よりも革命を」と主張する側と、1977年時点においても鋭く対立し合う。4人のなかではスターリニストによる徹底的な弾圧で政治の舞台から消えていたPOUM代表の出現が強烈な印象を遺し、マドリッド防衛戦で奮闘した国際旅団イギリス人部隊のアルチュール・ロンドンへのインタビューと共に、ともすれば陥りがちな教科書的なスタイルの行間から現代史の深層が露呈してスリリングだ。(松田政男)